新潟地方裁判所 昭和54年(行ウ)2号 判決 1983年5月31日
新潟県上越市仲町三丁目二番一三号
原告
有限会社栄不動産
右代表者代表取締役
金子範英
右訴訟代理人弁護士
渡部正男
新潟県上越市西城町三丁目二番一八号
被告
高田税務署長
酒井正義
右指定代理人
遠藤きみ
右同
東清
右同
南昇
右同
外川利徳
右同
島田義夫
右同
久川要造
右同
篠原靖宏
右同
寺島健
右同
関秀司
右同
楜澤伸吉
右同
阿島丈夫
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が昭和五二年六月三〇日付で原告の昭和四九年四月一日から同五〇年三月三一日までの事業年度分の法人税についてした更正処分及び無申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は不動産売買等を業とする会社であるが、原告の昭和四九年四月一日から同五〇年三月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、原告のした確定申告、これに対して被告のした更正及び無申告加算税の賦課決定、原告のした異議申立て及び審査請求並びにこれに対する異議決定及び審査裁決の経緯は、別表記載のとおりである。
2 しかしながら、
(一) 右更正(以下「本件更正」という。)は、原告の所得金額を過大に認定したものであるから違法である。
(二) 右無申告加算税の賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)は、本件更正を前提としたもので違法である。
よって、原告は、本件更正及び本件賦課決定の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の主張は争う。
三 被告の主張
本件更正及び賦課決定の課税根拠は次のとおりであり、右両処分はいずれも適法である。
1 本件更正における課税所得金額七七三二万六七一七円は、原告が昭和五〇年八月三〇日付でした確定申告における申告欠損金額一五五八万四七五二円に次の差額金額を加算したものである。
(一) 土地売上金額 二億四六一三万五一七五円
(二) 土地売上げの必要経費認容 一億五三二二万三七〇六円
(三) 差引計((一)-(二)) 九二九一万一四六九円
2 右加算の根拠は次のとおりである。
(一) 土地売上げの計上もれ
(1) 原告は株式会社大産(以下「大産」という。)に対し、昭和四八年一二月二七日、原告所有の別紙第一物件目録(一)ないし(六九)記載の土地(以下「当初契約土地」という。)六九筆計一七万三二九八・五六平方メートルを代金五億二四二二万八一四四円で売渡し、昭和四九年三月三一日までに代金支払と同時に所有権移転登記をする旨を定めて売買契約を締結し(以下「当初契約」という。)、その際、大産は原告に対し手付として金一億五〇〇〇万円を交付した。そして原告は大産に対し、昭和四九年四月八日から同月一〇日までの間に当初契約土地六九筆のうち別紙第二物件目録記載の土地(別紙第一物件目録(一)ないし(二九)記載の土地にあたる。以下「本件土地」という。)二九筆計八万一三六七平方メートルにつき、当初契約の履行として別紙第二物件目録記載のとおり所有権移転登記手続をなした(以下「本件移転登記」という。)。他方、大産は原告に対し、当初契約の代金支払として、昭和四九年四月六日金五〇〇〇万円、同年五月一六日金三〇〇〇万円、同年七月三日金三〇〇万円を支払った。
(2) 本件土地は原告にとっていわゆるたな卸資産であるが、たな卸資産による販売による収益は、それが確定ないし実現した時に生ずるものというべきである(権利確定主義)。たな卸資産は、その引渡しによって販売収益の原因となる権利が確定し、所得の実現が確実になったものと解されるから、本件土地のようなたな卸資産の販売による収益の計上時期は、当該たな卸資産の引渡しがあった日の属する事業年度であると解される(法人税基本通達二-一-一)。そこで本件では、前記のとおり昭和四九年四月八日から同月一〇日までの間に本件移転登記が経由され、もって本件土地の引渡しがなされているから、当初契約における本件土地二九筆に対応する原告の売上収益は、本件事業年度に確定・実現したものとして、右年度の益金に算入したのは相当である。
(3) 本件土地の売上金額
当初契約の対象土地のうち、本件移転登記のなされた本件土地の面積は八万一三六七平方メートルであり、当初契約における売買代金の単価は一律に一平方メートル当り金三〇二五円であるから、右の本件土地面積に代金単価を乗じた金二億四六一三万五一七五円を本件土地売上金額とした。その算式は次のとおりである。
(土地売上面積) (土地単価) (土地売上金額)
81,367平方メートル×3,025円=246,135,175円
(二) 土地売上げの必要経費の算定根拠
(1) 本件土地の売上金額に対応する必要経費の内訳は次のとおりである。
(ア) 土地取得原価 五二六三万三八五五円
(イ) 売買諸費(固有費用) 七〇一〇万二四二五円
(ウ) 売買諸費(共通費用) 一六六万六二三七円
(エ) 一般管理費(共通費用) 五〇四万七八六三円
(オ) 支払利息(共通費用) 二三七七万三三二六円
必要経費合計 一億五三二二万三七〇六円
(2) 右金額の算定根拠は次のとおりである。
(ア) 土地取得原価
原告は、本件土地二九筆を別紙第二物件目録記載の「原告記帳の土地取得原価」のとおりの金員を払って取得したので、本件土地に係る原告の取得原価は右金額の合計たる金五二六三万三八五五円である。
(イ) 売買諸費(固有費用)
当初契約に係る土地取引について、原告は大産関係の物件固有の売買諸費として金七〇一〇万二四二五円を支出した。
(ウ) 売買諸費(共通費用)
原告の営業取引に関する各物件の共通費用としての売買諸費の総額は金一五一六万〇四五〇円であり、これに大産関係土地按分率二一・九二パーセント及び本件土地配分率五〇・一四パーセントを乗じた金一六六万六二三七円を本件土地についての売買諸費(共通費用)とした。その算式は次のとおりである。
(売買諸費の共通費用) (大産関係土地按分率) (本件土地配分率)
15,160,450円×21.92%×50.14%=1,666,237円
なお、大産関係土地按分率は次の計算により求めた。すなわち、原告は不動産売買業者として当初契約土地以外にも一般譲渡物件を所有しており、原告の営業取引に係る各物件共通費用を大産関係土地に按分するため、次の算式によりその按分率を二一・九パーセントと計算した。
大産関係土地仕入価額(A) 一億〇四九六万二七三一円
期首土地原価(B) 一億一〇一七万一二七六円
土地仕入総額(C) 三億六八五九万六九六〇円
大産関係土地按分率
また、本件土地配分率は、次の計算によって求めた。すなわち、大産関係土地のうち、本件事業年度内に所有権移転登記がなされたのは本件土地のみであるから、原告の営業取引に係る共通費用を本件土地分と翌事業年度以降に販売された物件分とに配分する方法として、次の算式により本件土地配分率を五〇・一四パーセントと計算した。
大産関係土地仕入額(A) 一億〇四九六万二七三一円
本件土地原価(B) 五二六三万三八五五円
本件土地配分率
B÷A=50.14%
(エ) 一般管理費(共通費用)
原告の営業取引に関する各物件の共通費用としての一般管理費の総額は金四五九二万八五四六円であり、これに大産関係土地配分率二一・九二パーセント及び本件土地配分率五〇・一四パーセントを乗じた金五〇四万七八六三円を本件土地についての一般管理費(共通費用)とした。その算式は次のとおりである。
(一般管理費総額) (大産関係土地按分率) (本件土地配分率)
45,928,546円×21.92%×50.14%=5,047,863円
(オ) 支払利息(共通費用)
原告の営業取引に関する各物件の共通費用としての支払利息の総額は金二億一六三〇万四二六〇円であり、これに大産関係土地按分率二一・九二パーセント及び本件土地配分率五〇・一四パーセントを乗じた金二三七七万三三二六円を本件土地についての支払利息(共通費用)とした。その算式は次のとおりである。
(支払利息総額) (大産関係土地按分率) (本件土地配分率)
216,304,262円×21.92%×50.14%=23,773,326円
3 本件賦課決定の適法性
本件更正は以上のとおりであるところ、原告は本件事業年分の法人税確定申告を法定申告期限たる昭和五〇年五月三一日を徒過し同年八月三〇日に申告したものである。そこで、国税通則法六六条一項二号により本件更正に基づき納付すべき法人税額三〇二一万〇三〇〇円(本件事業年度の所得に対する法人税額に還付金額金二二万七七四二円を加算したもの)を基礎として一〇〇分の一〇の割合を乗じて得た金額の無申告加算税三〇二万一〇〇〇円の賦課決定を行ったものである。
四 被告の主張に対する認否
1 被告の主張1のうち、原告の申告欠損金額は認め、その余は争う。
2 同2(一)(1)のうち、本件移転登記が当初契約の履行としてなされたことは否認し、その余は認める。(2)のうち、たな卸資産の販売収益につき権利確定主義が妥当することは認め、その余は争う。(3)のうち、本件土地面積及び売買代金の単価は認め、その余は争う。(二)(1)は争う。(2)のうち、(ア)は争い、(イ)は認める。(ウ)のうち、共通費用としての売買諸費の総額及び大産関係土地按分率は認め、その余は争う。(エ)のうち、共通費用としての一般管理費の総額及び大産関係土地按分率は認め、その余は争う。(オ)のうち、共通費用としての支払利息の総額及び大産関係土地按分率は認め、その余は争う。
3 同3は争う。
五 原告の反論
1 本件更正及び賦課決定には、以下に述べるとおり、本件土地二九筆の売上収益につき、昭和五一年度の益金に算入すべきであるのに、本件事業年度の収益としてその益金に算入し、原告所得を過大に認定した違法がある。
(一)(1) 大産は、原告に対し、手付金のほか、昭和四九年七月までに金八三〇〇万円を支払ったのみで残代金の支払をせず、当初契約のままでは契約の履行ができないことから、原告と大産は売買契約の対象たる当初契約土地六九筆から別紙第一物件目録(六一)ないし(六九)記載の土地(以下「除外土地」という。)九筆計四万〇〇一二平方メートルを除外し、これを返品扱いとして会計処理をなし、昭和五二年一月二〇日このことを明確にするため、右九筆を除いた別紙第一物件目録(一)ないし(六〇)記載の土地(以下「最終契約土地」という。)六〇筆計一三万三一八六・五六平方メートルを新たに売買目的物とし、売買代金もこれに応じて金三億七二六五万八七七六円に減じる契約(以下「最終契約」という。)を締結した。
(2) 右最終契約は、本件土地二九筆も含んでおり、当初契約の実費的内容を変更するものであって、右変更の限度でもとの契約の全部又は一部を撤回ないし合意解除し、新たな別個の契約をしたいわゆる変更契約であるから、本件土地に関する売買契約の成立日は昭和五二年一月二〇日と解すべきであって、その収益は右契約日を含む昭和五一年度の益金に計上すべきである。
(二) 当初契約土地六九筆は、実地においては一筆ごとの境界は全く不明であり、その現況は高低差があって、右土地を飛び飛びに売買することなど考えられず、当初契約ないし最終契約は、一つの山地を売買の目的物とした一括売買であって、全部を一体として契約し履行するのでなければ契約目的を達しえない。まして本件土地二九筆だけでは虫食い状態の土地にすぎず、商品としての流通換価価値もなく、これにつき一部履行しても全く意味がないのであるから、その収益の計上時期は、一括売買全体についてとらえるべきであって、昭和五一年度の益金とすべきである。
(三) 本件移転登記は、原告が大産に金融を得させ、残代金の支払を受けるための便宜的な手段方法としてなされたものであって、当該契約上の義務の履行としてなされたものではなく、また、本件移転登記のときまでに大産が原告に支払った金二億円は本件土地二九筆に対応する代金ではないから、その収益は、本件事業年度の益金に算入すべきではない。
(四) 後記2のとおり、仲介斡旋手数料の支払等の当初契約に関する原価が、本件事業年度においては未定であり、申告そのものができる状況ではなかったのであるから、本件土地二九筆の売上収益といえども本件事業年度の益金に算入すべきではない。
2 被告は、本件土地の売上げに伴う次の経費を計上せず原告の所得を過大に認定した違法がある。
(一) 仲介斡旋手数料
原告は、東栄商事に対し、昭和五二年一月二四日、当初契約の仲介斡旋手数料として金一五〇〇万円を支払った。
(二) 調査費用
原告は、渡辺測量事務所に対し、昭和四九年一二月二一日、当初契約土地の調査費用として金一〇九万八二一〇円を支払った。
六 原告の反論に対する被告の認否及び再反論
1 原告の反論1(一)(1)のうち、原告主張の最終契約が締結されたことは認めるが、契約成立の経緯は否認する。(2)の主張は争う。最終契約は、除外土地九筆が最終契約時においてすでに原告によって他に売却され、移転登記も終えていたので、これを売買対象から除いてこれに応じて売買代金を減額し、かつ当初契約に基づく残代金の支払方法について合意したものにすぎないものであって、しかも最終契約における一平方メートル当りの土地単価は当初契約におけるそれと同額の金三〇二五円であるから、本件土地二九筆を含む最終契約土地六〇筆については昭和四八年一二月二七日が売買契約の成立日である。
(二)の主張は争う。当初契約土地の各筆は、もと個別の地主が所有していたもので、いずれも相当広い面積を有し、また、大産は特定の目的をもってこれを開発造成をしようとする意図があったものではない。現に本件移転登記がなされた後、大産は本件土地を第三者との間で売買予約の登記ないし根抵当権設定の登記をしていることからしても、原告の主張は失当である。
(三)の主張は争う。原告の本件移転登記の履行が大産に金融を得させるための意図でなされたものとしても、それはあくまで代金との同時履行によらないで一部先履行するに至った原告の動機にすぎず、そのことが直ちに、本件移転登記が売買契約の履行としてなされたことまで否定するものではない。
2 同2(一)、(二)の事実は否認する。法人税法二二条三項二号は、法人の各事業年度の所得の金額の計上当該事業年度の損金の額に算入すべき販売費、一般管理費その他の費用については償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く旨を規定しており当該事業年度終了の日までに債務が確定しているといえるためには、原則として、当該事業年度終了の日までに当該費用に係る債務が成立していること、当該事業年度終了の日までに当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること、当該事業年度終了の日までにその金額を合理的に算定することができるものであることの各要件をすべて満たすものでなければならないと解すべきである(法人税基本通達(昭和四四年五月一日直審(法)二五、国税庁長官通達)二-二-一二)。
原告主張の仲介斡旋手数料は本件事業年度終了の日までに右各要件を満たしていないから、法人税法上本件事業年度の所得金額の計算においてこれを損金の額に算入すべきでない。
第三証拠
一 原告
1 甲第一ないし第八号証、第九号証(昭和四八年四月ころの本件土地付近の航空写真である。)、第一〇ないし第一七号証、第一八号証の一ないし五、第一九・第二〇号証の各一ないし三、第二一号証(写)、第二二号証
2 証人小島義信(第一ないし第三回)、原告代表者
3 乙第一ないし第三五号証、第三九号証、第四〇号証の一、第四二ないし一五四号証の成立は(第一ないし第三号証、第一五一ないし第一五四号証、第一五六号証については原本の存在とも)いずれも認める。第一五五号証が原告主張の写真であることは認める。第四〇号証の二のうち、一ないし三枚目の成立は認め、その余は知らない。その余の乙号各証の成立はいずれも知らない。
二 被告
1 乙第一ないし第三号証(いずれも写)、第四ないし第三九号証、第四〇号証の一、二、第四ないし第一五〇号証、第一五一ないし第一五四号証(いずれも写)、第一五五号証(昭和五〇年九月二四日当時の本件土地付近の航空写真である。)、第一五六、第一五七号証(いずれも写)、第一五八号証
2 証人野田誠夫、同川合信一
3 甲第一ないし第七号証、第一一ないし第一七号証の成立はいずれも認める。その余の甲号各証の成立はいずれも知らない(第九号証については原告主張の写真であることも知らない)。
理由
一 請求原因1の事実及び原告の本件事業年度の申告欠損金額が金一五五八万四七五二円であることは当事者間に争いがない。
二 まず、本件土地二九筆の売上計上時期を本件事業年度とするのが正当か否かについて検討する。
原告が大産に対し、昭和四八年一二月二七日、原告所有の当初契約土地六九筆計一七万三二九八・五六平方メートルを代金五億二四二二万八一四四円で売渡し、昭和四九年三月三一日までに代金の支払と同時に所有権移転登記をする旨を定めて売買契約を締結したこと、その際大産は原告に対し、当初契約の手付として金一億五〇〇〇万円を交付したこと、原告は大産に対し、昭和四九年四月八日から同月一〇日までの間に本件土地二九筆計八万一三六七平方メートルについて所有権移転登記手続をなしたこと、大産は原告に対し、当初契約の代金の支払として昭和四九年四月六日金五〇〇〇万円、同年五月一六日金三〇〇〇万円、同年七月三日金三〇〇万円を支払ったこと、原告と大産は、当初契約土地六九筆から除外土地九筆計四万〇〇一二平方メートルを除いた六〇筆の土地計一三万三二六・五六平方メートルを売買目的物とし、売買代金もこれに応じて金三億七二六五万八七七六円と減じる契約をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。
そして、右当事者間に争いのない事実に、成立に争いのない甲第六、第七号証、第一一ないし第一七号証、乙第七ないし第三五号証、第四二ないし第一五〇号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第一ないし第三、第一五一ないし第一五四号証、証人小島義信(第一回)の証言により真正に成立したものと認められる甲第八号証、証人小島義信(第三回)の証言により真正に成立したものと認められる甲第二〇号証の一ないし三、第二一、第二二号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第三六、第三七号証、第四一号証、証人小島義信(第一回)の証言及び原告代表者尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。
1 原告は、昭和四八年ころ資金繰りに窮し、当初契約土地の買受人を探していたが、訴外老川憲行の紹介により大産を知り、右老川の仲介に基づき、大産との間で、昭和四八年一二月二七日当初契約を締結し、手付として金一億五〇〇〇万円の交付を受けた。
2 当初契約土地は、上越市所有の学校林を取り囲む形で存在し、かつ地形的にも高低差があって、そのままでは平たんな土地として統一的に利用することのできない土地であり、したがって、大産としても、右当初契約にあたり右土地を開発する目的があったわけのものでなかった。
3 大産は、右の当初契約で約定されていた所有権移転登記と売買残代金の履行期である昭和四九年三月三一日になっても売買残代金の支払をしなかったので、原告の代表者金子範英は、大産と残代金の支払を交渉し、その結果、同年四月六日その内金五〇〇〇万円の支払を受けるとともに末払残代金の支払については、原告において先履行として大産に対し当初契約土地の一部につき所有権移転登記手続をし、大産においてこれを担保に供して融資を得たうえ履行することの合意をなした。そこで、原告は、右合意に基づき、同年四月八日から同月一〇日までの間に当初契約土地の中から選び出した本件土地二九筆について、大産に所有権移転登記を経由した。なお、この本件土地二九筆は、その形状において、モザイク的な状態ではなく、四つのまとまった一団の土地でありそれぞれ山林としても相当な広さ(最大五万一九九八平方メートル、最小七九九九平方メートル)を有する土地であった。
4 その後、大産は原告に対し、昭和四九年五月一六日金三〇〇〇万円、同年七月三日金三〇〇万円を支払ったが、それ以後は代金の支払がなく、原告は、大産が代金の支払をしやすくするために昭和四九年一二月五日に当初契約土地六九筆から除外土地九筆を会計処理上返品扱いとして売買の目的物から除外し、同月一九日以降右除外土地九筆を多数の土地に分筆のうえ他に転売した。
5 原告は、その後も売買代金の支払を求め続けていたが、大産は本件土地二九筆につき、昭和五〇年二月六日、訴外香和興産株式会社に所有権移転請求権仮登記を、昭和五〇年九月三〇日新井信用金庫に、昭和五一年一月二八日猪又建設株式会社にそれぞれ根抵当権設定登記をなした。
6 原告は、大産が売買代金を払わないので当初契約の解除も考慮したが、結局契約の履行を求めることにし、代金支払を確保するために大産との間で昭和五二年一月二〇日当初契約の対象である六九筆の土地から九筆の土地を除外したことを契約上明らかにするとともに減少した土地面積に応じて売買代金も減額し、約束手形をもって売買残代金の支払を受けることに合意し、右約束手形の振出を受けた。原告は、大産に対し、最終契約土地六〇筆のうち本件土地以外の土地について所有権移転登記をなした。
以上の各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
ところで、本件土地のような、たな卸資産の譲渡による収益の計上時期は、その収益の確定ないし実現した時期であって、当該資産の引渡しのあった日の属する事業年度と解するのが相当であるところ(法人税基本通達二-一-一)、右認定事実、ことに本件土地面積にほぼ対応した額の金員が本件事業年度内に大産から原告に対し支払われているばかりではなく、本件土地の所有権移転登記も本件事業年度内になされたこと、原告と大産との間では、大産が本件土地を自由に処分できる趣旨で右移転登記がなされたこと、本件土地自体だけでも山林として相当な広さを有すること、昭和五二年一月二〇日になされた最終契約は原告と大産間の本件土地を含む土地売買契約の内容を確認するために結ばれたこと等を総合勘案すれば、本件土地は、他の当初契約土地とは別個に本件事業年度内に、所有権が確定的に大産に移転し、その売上げによる収益も確定ないし実現し、その引渡しがあったものというべきである。したがって、本件土地の売上げによる収益は、本件事業年度の益金とすべきであり、また、これに対応する必要経費が右年度の損金に計上されるべきである。
三 そこで、つぎに本件土地の売上げの計上もれ金額について検討する。
1 本件土地の売上金額
本件土地の面積が八万一三六七平方メートルであって売買代金の単価が一平方メートル当り金三〇二五円であることは当事者間に争いがないから、右土地面積に代金単価を乗じた金二億四六一三万五一七五円が本件土地の売上金額である。
2 本件土地の売上げに伴う必要経費
(一) 土地取得原価
成立に争いのない乙第四号証、証人野田誠夫、同川合信一の各証言によれば、本件土地の取得原価は、別紙第一物件目録(二)記載の土地の取得原価が金二九万九八八六円であり、同目録(一七)記載の土地の取得原価が金三〇二万五三一九円であるほか、別紙第二物件目録の「原告記帳の土地取得原価」欄に記載のとおりの金額であることが認められ、その合計金額は金五二六三万三八六八円である。
(二) 売買諸費(固有費用)
固有費用としての売買諸費が金七〇一〇万二四二五円であることについては当事者間に争いがない。
(三) 売買諸費、一般管理費、支払利息(いずれも共通費用)
共通費用としての売買諸費の総額、一般管理費の総額及び支払利息の総額並びに大産関係土地按分率は当事者間に争いがない。そして、前記認定のとおり本件土地の取得原価は金五二六三万三八六八円であり、また、前掲乙第四号証、成立に争いのない乙第五号証、証人野田誠夫、同川合信一の各証言によれば、当初契約土地である大産関係土地の仕入金額は金一億〇四九六万二七三一円であることが認められるから、本件土地配分率は五〇・一四パーセントとなる。
以上により算出すると、売買諸費(共通費用)は金一六六万六二三七円、一般管理費(共通費用)は金五〇四万七八六三円、支払利息(共通費用)は金二三七七万三三二六円となる。
(四) 仲介斡旋手数料
原告は、東栄商事に対し当初契約の仲介斡旋手数料として金一五〇〇万円を支払った旨を主張するので、この点につき検討するに、成立に争いのない乙第三九号証、証人小島義信(第二回)の証言により真正に成立したものと認められる甲第一八号証の一ないし五、証人小島義信(第二回)の証言(ただし、後記措信しない部分を除く。)によれば、原告は、東栄商事(原告代表者と兄弟であり、原告会社の取締役でもある金子福三郎の個人営業であって、不動産斡旋業のほか金融業を営む。)に対し、昭和四九年三月三一日当時金三億一〇〇〇万円もの借入金残高があり、また昭和五二年一月においても、原告は、東栄商事に対し、額面総額五五〇〇万円の受取手形五通を裏書譲渡して右借入金の元本の一部返済に充てていたこと、昭和五一年一一月一日から昭和五二年三月二二日までの間に右借入金の利息の支払としては、原告が仲介手数料の支払と主張する昭和五二年一月二四日の金一五〇〇万円の受取手形の裏書譲渡のみであること、原告と大産との当初契約にあたり仲介斡旋の労をとった中心人物は訴外老川憲行であったが、同人に対して原告は仲介斡旋手数料を支払っていないことが認められるので、原告が昭和五二年一月二四日東栄商事に金一五〇〇万円の受取手形を裏書譲渡したのは甲第一八号証の五の帳簿記載のとおり右借入金に対する利息の支払としてなされたものと認めるのが相当であって、右認定に反する証人小島義信(第二回)の証言はたやすく措信できず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって、原告の右主張には理由がない。
(五) 調査費用
原告は、渡辺測量事務所に対し当初契約土地の調査費用として金一〇九万八二一〇円を支払った旨を主張するので、この点につき検討するに、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一五八号証によれば、原告が渡辺測量事務所(土地家屋調査士渡辺和雄)に昭和四九年一二月二一日調査費用として支払った金一〇九万八二一〇円は、原告が当初契約土地六九筆から除外土地九筆を除き、境界を明らかにしたうえで右九筆の土地を多数の土地に分筆するための費用であることが認められるから、原告主張の右調査費xiは本件土地二九筆について生じたものではないので、これを本件土地売上げの経費とすることはできず、原告の右主張には理由がない。
以上からすると、本件土地の売上げに伴う必要経費は合計金一億五三二二万三七一九円である。
四 以上検討してきたところによれば、原告の本件土地二九筆の売上所得は金九二九一万一四五六円で、これに本件事業年度の申告欠損金額を加算して原告の本件事業年度の所得を算出すると金七七三二万六七〇四円となるので、本件更正(課税所得金額七七三二万六七一七円)は、原告の本件事業年度の所得を金一三円過大に認定したものである。しかし、国税通則法一一八条一項によれば、法人税額を算出する基礎となる課税標準を計算するにあたり金一〇〇〇円未満の端数があるときはその端数金額を切り捨てることになるところ、当裁判所が本訴において認定した原告の本件事業年度の所得金額による課税標準は、本件更正における原告の所得金額による課税標準と同額の金七七三二万六〇〇〇円であるから、被告が本件更正において原告の所得を金一三円過大に認定した点は、結局本件更正の適法性に影響しないというべきである。
また、原告が本件事業年度の法人税確定申告を昭和五〇年八月三一日になしたものであることは当事者間に争いがないので、本件事業年度の終了日たる昭和五〇年三月三一日の翌日から二ケ月以内(法人税法七四条一項)に確定申告しなかったことが明らかであるから、本件の無申告加算税の賦課決定も適法である。
五 以上の次第であるから、原告の本訴請求はいずれも理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 柿沼久 裁判官 清水信雄 裁判官 石田浩二)
別表
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(所得金額欄の△印は欠損金を、法人税額欄の△印は還付税額を示す。)
第一物件目録
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第二物件目録
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